■子どもたちが自然と歌に親しめる環境の背景にあるもの
「まだ小さな子どもたちが、歌を楽しんでいる。」「いつの間にか、いろんなメロディを覚えて楽しそうに口ずさんでいる。」
子どもたちがこれほど自然に、そして生き生きと歌やリズムに親しめるのはなぜでしょうか。その大切な要素のひとつが、私たちが大切にしている「お集まり」の時間にあります。
0歳児から5歳児までの異年齢の子どもたちが一堂に会する園庭には、子どもたちの耳と心を刺激し、豊かな表現力を引き出すための、さまざまな工夫や配慮が込められています。
◼︎年齢の枠を超えて、ひとつの音楽に包まれる園庭
澄みわたる朝の園庭。
心地よい風のなか、キーボードから流れる軽快な前奏が響くと、0歳児のもも組から5歳児のすみれ組まで、全園児が集まった空間が一気に活気づきます。

まずは年長のすみれ組や、年中のあやめ組のお兄さん・お姉さんたちが、大きな口を開けて堂々と歌い始めます。普段のお部屋では元気に賑やかに過ごしている子どもたちですが、全園児が集まるお集まりの場になると、すっと表情が変わります。
年長クラスの担任の先生に、そんな子どもたちの頼もしい変化について話を聞きました。
【年長クラス担任インタビュー】
Q. 普段のお部屋と、お集まりの時では子どもたちの雰囲気は変わりますか?
「はい、やはり変わりますね!普段のお部屋ではワイワイと元気いっぱいのクラスですが、お集まりになると『一番上のお兄さん・お姉さんとして、小さい子たちのお手本になるぞ』という意識をそれぞれがしっかり持っているなと感じます。」
Q. 下の子たちの前に立つと、スイッチが入る瞬間がありますか?
「本当に『かっこいいところを見せるぞ!』という気持ちが伝わってきます。先日も年少のきく組と一緒にお帰りの会などで歌を歌ったのですが、クラスだけで行う時よりも下の子たちがいる時の方が背筋がスッと伸びていたり、大きな声で歌ったり、踊りも一所懸命に頑張っています。」
Q. 全体で声を合わせて歌い切った瞬間、子どもたちはどんな表情をしていますか?
「もし間違えてしまったところがあっても、子どもたち同士で『ここはこうだよ』と優しく教え合う姿が見られます。最後はみんな、とても充実感のある良い笑顔を見せてくれます。」
こうした年長さんの誇らしげな姿を、小さな子どもたちは憧れの眼差しで見つめています。
0歳児(もも組)の赤ちゃんたちも、保育士に優しく抱かれながら響き渡る歌声やリズムを全身で感じ、おめめをキラキラさせてニコニコとご機嫌な表情を浮かべます。言葉をまだはっきりと話せない1歳児(さくら組)の子も、お兄さんたちの真似をして体を左右にゆらゆらと揺らしながら「あー」「うー」と可愛い声を響かせています。2歳児(つばき組)や、3歳児(きく組)の子どもたちも、年長児の姿を見ながら少し得意げな表情で言葉を紡ごうとしています。
広い園庭全体がひとつの大きな音楽に包まれる、とても温かく一体感のある瞬間です。

■日常の「できた!」が、全体お集まりの自信に繋がる
全体のお集まりで見せる子どもたちの堂々とした姿は、決して突然生まれるものではありません。
その背景には、日々のクラス活動における積み重ねがあります!
数多くの子ども向けの歌がありますが、袖師保育園では長年にわたり、「季節の歌(童謡)」をとても大切にしてきました。これは日本語の美しい響きや季節の情景が広がる童謡を通して、子どもたちの感性を育むためです。
未満児クラス(0〜2歳)では週に2〜3回、定期的に歌や音と触れ合う機会をつくっています。
そして幼児クラス(年少・年中・年長)になると、ほぼ毎日、クラスごとに”お集まりの時間”を設け、季節の歌やお遊戯などをのびのびと楽しむ習慣を取り入れています。
この日々の経験の積み重ねが、子どもたちの生き生きとした表情につながっています。
お集まりの翌日に1歳児クラスの保育室で同じメロディをピアノで弾くと、言葉がまだ出ない子どもたちが一斉に身体を揺らしながらハミングし始めることもあります。
お兄さん・お姉さんたちの歌う姿や空間の楽しさがしっかりと心に残っているからです。
日々のクラスで育んだ歌への親しみが、園庭のお集まりという大きな舞台で、自信に満ちた歌声となって花開いているのです。

■「真似の天才」たちが、憧れから学ぶ環境
各クラスで育まれた美しい季節の歌声が自然と響き渡る環境をつくることで、子どもたちは「教え込まれる」のではなく、五感を通して豊かな表現を吸収していきます。
また、私たちは「完璧に歌わせること」を目的としていません。
袖師保育園の教育方針である
「みほとけの理想のもとに、心ゆたかな、やさしい子を育てる」
に基づき、まずは「みんなの声が合わさる心地よさ」や「音や言葉を楽しむ豊かな心」を大切にしています。
子どもたち一人ひとりの小さな発声や身体の表現を見逃さず、「楽しいね」「上手だね」と共感し、自己表現を安心して楽しめるよう見守っています。

■音楽の楽しさは、安心のなかで育つ
異年齢の温かい関わりの中で育まれる歌声は、子どもたちの心にある「表現する楽しさ」を豊かに育てていきます。
みんなで声を合わせる心地よさを知った子どもたちは、園という安心できる場所で、自分らしくのびのびと自分を表現する力を身につけていきます。
袖師保育園の「お集まり」は、子どもたちの心と音が心地よく響き合う、かけがえのない時間となっています。
月に一度の全体のお集まりで見せる子どもたちのきらめく表情。
それは、今日もそれぞれのクラスで積み重ねられている、温かい日々の保育の中で大切に育まれています。
(保育者 望月 由起)

